SF世界の培養肉 未来の代替肉を生み出すインテグリルカルチャー
今後社会的ニーズが高まるものとして注目されているのが「代替肉」です。代替え肉はすでに大豆ミートが販売されていますが、いま「肉の細胞から新たな肉を生み出す」という画期的な培養肉が注目されています。
その事業開発に取り組んでいるのが「インテグリルカルチャー」というスタートアップ企業です。今回はこの未来の食材を生み出す企業について深堀してみましょう。
Contents
インテグリルカルチャーとは何の会社
インテグリルカルチャーは、簡単にいうと人工肉の開発を行っているスタートアップ企業です。独自の培養システムを使って「肉の細胞から新たな肉の塊を生み出す」といった事業を展開しています。食用の肉だけでなく、新たな化粧品の開発事業や細胞培養の研究開発、細胞培養をベースとしたあらたな医療への展開なども模索しています。
細胞培養コストを下げることに成功
インテグリルカルチャーが一躍注目されたのは、人工肉の開発コストを従来のものより大幅に下げることに成功したからです。
そもそも「細胞を培養液で育ててあらたな畜肉を生み出す」という考えは、19世紀から発案されていました。世界中でもその研究は地道に行われており、2013年にはオランダの研究者が培養液で育てた肉を使い、ハンバーガーを作ることに成功しました。
しかし培養液には高額な血清や成長因子が必要であり、当時作られたこのハンバーガーの時価総額は3500万円ともいわれたのです。
インテグリルカルチャーはこの培養液の製造コストを抑えることに着目し、従来よりも100分の1程度に抑える技術を開発しました。
コスト破壊はどうやって成功させたか
培養肉を市場に流通させるためには、なんといっても培養させるための技術のコストを抑える必要がありました。従来の培養液価格よりも100分の1程度に抑えられたのは、インテグリルカルチャーならではのユニークな開発があったからです。
例えば高額な成長因子などの成分を、スポーツドリンクや卵黄などから取り出す実験を行ったり、人体の臓器循環を模倣した技術を取り入れたりすることで、あらたな技術開発に成功しました。バイオ技術を駆使して量産効果をアップさせることに成功し、培養化の確率を促進したのです。
信州大学とタッグを組んだ研究が話題
インテグリルカルチャーは2019年に国立大である信州大学と共同研究契約を締結しています。ここで行われる研究は「ニワトリ胚膜および臓器の安定した回収手法の確立」です。
少々難しいように聞こえますが、分かりやすくいうと「ニワトリを殺さないで細胞を安定的に回収し、培養する方法を確立する」というもの。これまで動物実験においては動物を殺してさまざまな研究に使うことも多かったのですが、動物を傷つけることなく培養肉への研究を進めるというのがポイントです。
また、すでに欧米を圧巻している人工肉のビヨンドミートは、牛肉に似せた大豆ミートを開発しています。しかしインテグリルカルチャーの場合、牛肉や豚肉と比べて安く低脂肪なニワトリの肉に注目し、独自開発を進めています。ニワトリをはじめとした動物を殺すことなく、本物の肉が食べられる日も近いのかもしれません。
今後著しい成長が期待される企業として表彰される
ちなみにインテグリルカルチャーは、2020年に「EY Innovative Startup 2020」を受賞しています。これは今後の日本経済を支えて発展する企業として、日本有限責任監査法人から選考されたものです。
EYは賞を与えて知名度の向上に寄与することで、よりよい社会の構築につなげることを目指す目的があります。過去に受賞した企業の多くは東証マザーズへの上場なども果たしており、その業界におけるシェアナンバーワンに輝いています。インテグリルカルチャーはまだ一般的な知名度は低いものの、近い将来誕生するといわれる人工肉産業において、大きな存在感を示すかもしれません。
インテグリルカルチャー 開発が期待される商品
ここからは、インテグリルカルチャーが開発しているものをみていきましょう。実際にスーパーで売られるのはもう少し掛かりそうですが、これまでに開発されたものはまさにSFの世界を連想させる驚くべきものばかりです。
フォアグラの人工肉開発に成功
インテグリルカルチャーは、細胞培養されたフォアグラの商品開発に成功しています。フォアグラとは、そもそもガチョウやアヒルの肥大した肝臓です。ヴィーガンの間では「フォアグラは無理やりエサを食べさせてガチョウを太らせたあげく、殺して調理する最悪な素材」などと言われており、動物愛好家からはフォアグラの販売中止を求める声も上がっています。
インテグリルカルチャーは動物を殺すことなく、肝臓細胞をつくる技術を用いてフォアグラを作ることに成功しました。この技術が今後さらに進めば、動物を傷つけることなく世界三大珍味の1つが美味しく食べられるかもしれません。この細胞培養されたフォアグラ、値段は決まっていないものの、2021年の年末には都内のレストランで提供されるそうです。
エビの細胞培養肉にも挑戦
インテグリルカルチャーが挑戦しているのは、食肉だけに限ったことではありません。シンガポールの食品会社と研究開発を行い、「エビ細胞培養肉」に挑戦することも発表しています。
エビは日本人が好きな魚介類です。安く手に入れるには養殖されたものを輸入するしかないのですが、海外では甲殻類の伝染病が流行ったこともあり、価格の高騰や安全性が懸念されています。
しかし、そんなエビも培養肉を開発できれば、安価で大規模に製造できる可能性があります。すでにエビの細胞を大量培養する技術は開発されているとのこと。安心で美味しいエビが手に入るのも近いかもしれませんね。
宇宙用食品「ゼリーピクルス」を開発
インテグリルカルチャーは、「203X年、宇宙でハンバーガーを作る!」を最終目標に活動しています。その前章ともいえる開発として、地球及び宇宙でも食べることができる宇宙用ピクルスを開発しました。
これは「スペースソルト・ゼリーピクルス」と呼ばれ、細胞培養の研究に基いて開発されたものです。インテグリルカルチャーの培養肉は画期的ではあるものの、まだまだ商品として店頭に並ぶには時間が掛かります。そのため宇宙で食べられるハンバーガーはもう少し先になるものの、スペースバーガープロジェクト第一弾として、宇宙でも食べられるピクルスを開発しました。
こちらの商品は、2020年にプロジェクトに賛同する人がクラウドファンディングの返礼品として受け取ることができたものです。残念ながら現在は終了となっていますが、今後は培養フォアグラバーガーの提供が予定されています。
化粧品開発も注目
インテグリカルチャーは数々の細胞培養技術を開発しており、その副産物として肌に良い培養上澄み液も誕生しています。これは、培養肉研究の過程で誕生した細胞培養上清液とも呼ばれ、肌に塗ることでハリやツヤを与える効果に期待されています。いまはまだ劇的な若返り効果は難しいものの、細胞が人工肉を生み出すことを考えれば、アンチエイジング効果の高い化粧品がこの企業から生まれてもおかしくはないでしょう。
まとめ
インテグリカルチャーの代表取締役、羽生雄毅氏は無類のSF好きだそうです。イギリスオックスフォード大学出身といった華々しい経歴はあるものの、会社を設立した大きなきっかけは、ドラえもんの漫画に誕生した人工肉を実現化させたい、と考えたことでした。
これまでの大豆を加工して肉を作るのではなく、肉そのものの細胞から肉本体を生み出すという技術は、まさに未来のSF映画のようです。その技術を担うインテグリルカルチャーの活躍に、今後も注目していきましょう。